同期が会社を無断欠勤した。
衝撃だった。
それと共に、ああなんとなく気持ちが分かるな、と思った。
その同期はある種の仲間みたいなものだったからだ。
もともとは真逆の立場にいた。私はすごく上手なスタートダッシュを切って、いろんな仕事を任せてもらっていた。彼は、口数が少なくておどおどした口調でぼんやりしていた。
みんな彼をなんとなく下に見ていただろう。そんな奴らに反吐が出そうだと思いつつ、なんだかんだ言っても私もどこか心の中では下に見ていたんだと思う。彼に仕事を任せられないと感じていた。
スタートダッシュがうまく切れた私は、それは最初だけであとはどんどん失速していった。周りの同期にどんどん抜かされ、私の後ろを走っているのは彼だけだった。
上司も同期も、彼のことを非難めいた形で言う。まだ成長できてない、自分から動いてくれない、ボーナスは1人だけ下げている、反抗的だ。などなど。
彼がドベを走っていてくれていたから、その非難は私に向くことはなかった。彼が受け止めていたからだ。
ただ、彼ほどではなくても失速した私にも非難めいたことは言われなくても周りの態度や言動で私を下に見ていることが伝わってきた。
だから、彼が無断欠勤をしたとき、驚きと同時に納得もしたのだ。何も言わずに消えたくなる気持ちはすごく分かる。やめたい理由なんて分かりやすすぎて惨めすぎて言えたもんじゃない。なんで自分はここにいるんだろう?自分の存在する意味って何?こんなに見下されてまで働くってなんの価値があるの?自分という存在が誰になんの影響も与えない、こんなに苦しいことあるか。
そんな思いを抱えて私は毎日出勤している。彼はそんな思いをもっともっと強く、感じていたのではないだろうか。
辞めたいなんてまどろっこしいやりとりして、説得されて、思ってもないくせに周りは寂しがるフリをして、いや、寂しがるフリすらしないかもしれない。それにまた心が折れて……そんなことを考えただけで何も言わずに去りたくなる。
私は彼の気持ちがよく分かるのに、向き合わずほっといてしまった。めんどくさかったからだ、彼と話すのが。彼はおしゃべりが上手じゃないから、話してて楽しくないから。そんな理由で彼が抱えている苦しみがわかるのに無視をした。負け犬同士慰め合ってるぜ、なんて目で見られるんじゃないかなんて思ってもいたからだ。
結局私も彼を下に見ていたから仲間だと思われたくなかった。抱えてるものは同じなのに。
私は他の奴らと一緒だ。同類だ。ああ、彼に何もできなかった。
彼はレースから降りた。もう1人の優しい同期も他の道を目指すとレースを降りた。
私は今最下位でなんとかペースを保ちつつ走っている。いつまで持つか分からない。情けなくて惨めでダサい自分を引きずって、ボロボロになりながら嫌われながらなんとか働いている。
やめる勇気がない私は、彼の無断欠勤を誇りに思うのだ。よくやった、と思う。明日ひょっこり現れる、なんてのは0.0001%ぐらいの確率だろうな。
今頃島でのんびり暮らしているのだろうか。